1.はじめに
コミュニケーションとは、「ことば」の音声表現、顔の表情、身振り手振りなどで相手に意思や考えを伝えるやりとりのことである。人間同士のコミュニケーションはバーバルコミュニケーション(「ことば」による)、ノンバーバルコミュニケーション(「ことば」によらない)の二種類に分けることができる。人間が相手に意思や考えを伝える場合、言葉と同時にジェスチャや顔の表情などのノンバーバル言語を利用する。人は言葉以外のやりとりをうまくとりいれて、豊かなコミュニケーションをとろうとする。私たちは、ノンバーバルコミュニケーションの特長の一つである身振り手振りを用いて「ことば」に相当する意味を伝達する手話を詳しく調べることで、空間を利用して表現するコミュニケーションのやりとりを豊かなコミュニケーションに活用する研究を行った。
2.研究目的
人は対話で使う「ことば」以外に筆談、身振りや手振りなど様々なコミュニケーションを行う[1.2](表1参照)。身振りや手振りを使ったコミュニケーションに手話が挙げられる。手話は空間を利用して身振りや手振り、顔の表情などで自分の意思や考えを相手に伝える。手話の空間を利用した身振り手振り、顔の表情などはノンバーバルな要素を含んでいるが、手話はバーバルコミュニケーションである。
私たちは、コミュニケーションの豊かさとはどういうものなのか空間を利用して表現する手話を用いて研究する。そのために、手話にはどういった特徴があるかを明らかにし、音声の「ことば」では難しいと感じるコミュニケーションを空間で表現することで補う。
3.手話コミュニケーション
手話は、「視覚言語」である。音声言語との最も大きな違いは、空間の利用にあり、肩幅の広さで胸の位置で表現するのが基本である。手話は、@位置,A形,B動きの3規則から成り立っており、どれも重要な役割を果たしている[1]。
手話は、単語の集まりで表現される。単語と単語をつなぐ助詞や格変化等を用いないため、たとえば日本語の「私は花が好きです」を手話で表現すると、「私 花 好き」という手の動きで表現される。このように音声言語と手話では表現の方法が異なる。
視 覚 言 | 語 音 声 言 語 | |||||
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言葉が目に見える |
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言葉を聞くことができる |
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離れた場所でコミュニケーション可能 |
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労力をあまり使わない |
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複数事物を同時に表現可能 |
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再生が可能 |
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感情のニュアンスが伝わる |
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B 結 果
磁気センサと電子グローブを使うことで、手の動きや位置、指の角度を立体的にとらえることができた。また、コンピュータが読みとる手の動きや位置、指の角度のデータから、手がどのように変化するかが明らかになった。
5.コミュニケーションに対する意識調査
@ 目 的
それぞれの立場の人(一般の人、メディアの仕事に携わっている人、手話でコミュニケーションをとっている人)に、人とコミュニケーションをとるときに心がけていることはどんなことかを聞き、明らかにする。
A 内 容
1)一般の人へのアンケートは、日頃コミュニケーションをとるとき、どのようなことを大切にしているのかを聞く。
2)メディアの仕事に携わっている人には、仕事柄人とコミュニケーションをとるうえでの心がけを聞く。主に、顔の表情の活用についてを聞く。
3)手話でコミュニケーションをとっている人には、音声による「ことば」ではないためどういうことを一番心がけて人とコミュニケーションをとっているのかを聞く。
B アンケート結果
アンケートの結果、大部分の人は共通してコミュニケーションは重要であると答えた。しかし、人とコミュニケーションをとる時、それぞれが心がけていることは違っていた。例えば、一般の人やマスメディアの人は、相手の気持ちやその場の雰囲気を考えて顔の表情を意識しているのに対し、手話でコミュニケーションをとっている人は相手に意思や考えを伝えるための手段として顔の表情を活用している。
空間を利用した身振り手振りは、それぞれが共通して、より相手に言いたいことや感情を伝えるために活用されていることが明らかになった。
6.課題と検討
コンピュータに読みとらせた手話の数が少なかったため、手の動きのデータが少ししか得られなかった。このため、手の動きの解析が限られてしまった。
コミュニケーションをどのように心がけているのかを調査するため、一般の人、マスメディアの人、手話でコミュニケーションをとっている人にそれぞれアンケートを行ったが、一般97人に対し、マスメディア、手話でコミュニケーションをとっている人、各10人と人数に極端に違いがあったため、正確な比較ができなかった。より多くの人達の考えを同数で聞く必要がある。
7.おわりに
手話の特徴を明らかにすることで、豊かなコミュニケーションとは何かを研究した。音声の「ことば」で、人の喜びや悲しみの程度、風の強さ、物の大きさ、物や人の位置関係などを、相手に伝えるのは難しい。手話は、手の動き・動きの速さ・手の位置・形等で話の内容、程度などが容易に理解できる。
空間を利用した身振り手振りを積極的に活用することで人との豊かなコミュニケーションを行うべきだと考える。
謝 辞
本研究にあたり、ご援助下さった手話講習会の小
池スエ子先生、大分大学工学部情報システム学科の宇津宮教授、西野先生、アンケートにご協力下さった皆様に深く感謝致します。
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