<要録>
マルチユーザワールドにおけるインタラクティブコミュニケーション
足立 恵美
 

キーワード : マルチユーザワールド 仮想現実感 インタラクティブコミュニケーション

1.はじめに
 近年、ネットワーク化、コンピュータ技術の向上にともない、WWWや電子メールを用いたコミュニケーションが盛んに行われるようになってきた。さらに、ネットワーク上で、仮想現実感(バーチャルリアリティ)を体験できるようになった[1]
 仮想現実感は、現実に存在する世界はもちろん、自分の頭の中で描いた空想の世界を3次元空間に表現し、その空間を歩き回ったり、時には中にある物体に触れることが可能な技術である。この技術は、現在ゲームや理学、工学、医療などにも盛んに応用されている[2]
 本研究では、マルチユーザワールドにおけるコミュニケーションがいかにあるべきか、マルチユーザワールドで必要とされる環境はいかにあればよいかについて研究を行う。

2.マルチユーザワールド
 VRML(Virtual Reality Modeling Language)や、javaといったネットワークに対応したプログラム言語の登場により、ネットワーク上に、仮想都市(バーチャルソサエティ)を構築しようという動きがでてきた。
sonyのバーチャルソサエティプロジェクト[3]の一つに、マルチユーザワールドがある。マルチユーザワールドでは、そこにアクセスしてきた人の姿をアバタ(仮身)としてみる。アバタどうしは、3次元空間内を歩き回ったり、会話したり、互いにアクション(動き)をしたりして、コミュニケーションをとることができる。マルチユーザワールドは、インターネットを介しており、遠くにいる人ともリアルタイムにコミュニケーションをとることができる。マルチユーザワールドが、インターネットのホームページ検索や、電子メールなどのコミュニケーションと大きく異なる点は、複数の人と同時にかつリアルタイム(実時間)にコミュニケーションをとることができるという点にある。 現在、マルチユーザワールドは、娯楽だけではなく、病院で長期療養児の心のケアや、障害者のコミュニケーション手段としても利用されている[3]

図1 マルチユーザワールド「クリスマス・ワールド」

3.研究の方法
 本研究は、マルチユーザワールド「だいあもんどぱーく」と「クリスマス・ワールド」を作成し、その利用評価やアンケート調査を行い、マルチユーザワールドにおけるコミュニケーションについて研究する。
 作成したマルチユーザワールドについては、以下の通りである。
(1)だいあもんどぱーく
 本学のダイアモンド広場をモデルにしており、現実を模倣した世界として構築した(図2参照)。利用者にリアクションを返す世界にするため、ぱーく内の外灯にタッチセンサをつけ、ライトをマウスでクリックするとその間光る機能をつけた。「だいあもんどぱーく」の合計ディスク量は674KBである。

図2 作成した「だいあもんどぱーく」
(2)クリスマス・ワールド
 サンタクロースの家付近をイメージして構築した空想的な世界である(図3参照)。ワールド内のツリーの星にタッチセンサをつけ、星をマウスでクリックすると、その間光る機能をつけた。「クリスマス・ワールド」の合計ディスク量は、166KBである。
図3 作成した「クリスマス・ワールド」
 
4.評価実験
 本学の学生を対象に、評価実験を行った。実験における計算機環境は、本学のWindows95を6台使用(1台はサーバとして使用)した。ネットワークについては、本学のネットワーク環境(LAN)を利用した。
 実験後のアンケート調査により、さまざまな結果が得られた。マルチユーザワールドでのコミュニケーションは、「ゲーム感覚」「違う自分になれる」「友達が増える」「今後も利用したい」という解答が多く見られた。これらのことから、将来的にマルチユーザワールドは、多くの人に利用されるようになるのではないかと期待される。しかし、「将来的にマルチユーザワールドが日常最も多いコミュニケーションにはならない」という答えも多く、コンピュータと触れ合う機会が多くなりつつある現在、対面コミュニケーションを大事にする人が多いと考える。

5.検討と考察
   マルチユーザワールドでは、仮の自分になって参加することもできる。実際の対面コミュニケーションが苦手な人でも、他の自分になることによって、比較的コミュニケーションをとりやすくなると考える。
 マルチユーザワールドは、通常のコミュニケーションとほぼ同等のコミュニケーションをとることができ、そのうえで、仮想的であるゆえにできる移動などの行為が可能である必要がある。マルチユーザワールドが、より利用者の満足を増すためには、将来的に、3次元世界そのものも、利用者の手によって、変更がなされるべきである。
  また、現状のマルチユーザワールドは、自分と気の合う仲間だけでコミュニケーションをとっているものが多く、外からの干渉を拒絶する閉鎖社会になるおそれもある。そのため、常に開かれたマルチユーザワールドの構築が必要である。
  マルチユーザワールドが、将来のコミュニケーションツールとして、多くの人に、日常的に利用されるようになるには、まだ問題がある。それらを少しずつ解決していくことが、今後強く求められる。

6.おわりに
 マルチユーザワールドにおけるコミュニケーションを研究することは、現実のコミュニケーションを研究することである。コミュニケーションの基本は、対面コミュニケーションであり、実際に会ってコミュニケーションやスキンシップをとることを忘れてはならないと強く感じた。デジタル情報を自由に共有、交換できる新しい環境に直面している今、人間社会はそれをどう利用するのか、どのような秩序を築き、いかに発展させるべきなのかを考える時にきていると考える。

謝辞
  本研究にあたり数々のご助言、ご援助下さいました本学科非常勤講師渡辺律子先生、本学科実習助手中島順美先生、実験、アンケート調査にご協力いただいた方々に深く感謝します。

参考文献

[1] 「日経サイエンス」,日経サイエンス社(1997,7).
[2] 原島 博 ,廣瀬 通考 ,下篠信輔 編:「仮想現実学への序曲」,共立出版(1996).
[3]ロジャー・リー:「JAVA+VRML」,プレンティスホール出版(1997).