ネットワーク上の著作権
清水 洋子 松野 美紀

キーワード:著作権 ディジタル複製 ソフトウェア 情報化社会

1.はじめに
   情報化社会が発展し、私たちの生活は非常に便利で豊かなものになった。しかし、多くの問題も起きている。「名誉毀損の問題」「プライバシー侵害の問題」「著作権侵害の問題」などである。これらの問題に共通する要因を、私たちは「ディジタル複製」とし、著作者の権利を守る「著作権法」が「ディジタル複製」を制限していると考える。
   本研究では、私たち一般市民が今後どのように生活していけば、よりよい情報化社会をつくっていけるのかを技術面・社会面・心理面の3つの面から考察する。

2.研究の目的
   情報化社会が発展し、さまざまな多くの問題が起きた。これらの問題は以前からあったものだが「情報処理技術の発達」でより大きく、複雑になったといえる。 さまざまな問題の根本にあるのは「ディジタル複製」と「著作権法」の関わり、そして「私たちの意識と知識」であると考える。したがって、その実態・具体的に何が問題になっているのかを明らかにし、
@技術はどう発達していけばよいか、
Aどのような制度が新たに必要となってくるか、
Bどのようなモラルが求められるか、
について研究する。

3.情報化社会と著作権
(1)情報化社会と著作権
   情報化社会は、物の生産・分配・消費等を基礎にしながらも、情報の生産・伝達・享受等の果たす役割が重要視される社会をいう(図1参照)[1]

図1 情報化社会の構造
 
   情報化社会では情報処理技術を使うことで@時間の節約、A労力の節約、B経費の節約、Cわずらわしさの減少が可能になる。情報化社会の特徴は「情報が簡単に手に入る」ということといえる。
   情報化が急速に発達した理由として「情報処理技術の発達」がある。「情報処理技術」はコンピュータと通信を結合したものであり、この技術により情報の伝達・蓄積・処理を効率的に行うことができる。伝達・蓄積・処理がスムーズに行われるために必要な技術に「ディジタル複製」がある。したがって「ディジタル 複製」は情報処理技術にとって非常に大切なものと考えられる。
   「著作権」は、著作物の利用に関する財産的な利益を保護することを目的とした権利で、著作者の持つ「著作人格権」「著作権」の2つの権利のうちの1つである。また「知的財産権」の1つである。
   情報処理技術の中心といえるソフトウェアも、この「著作権法」で保護されている。ソフトウェアは開発者の創造的なノウハウが表現されたもので、精神的かつ財産的な価値を持つ。ソフトウェアは、ディジタル信号として保管されているため、技術的にコピーされやすい[2]
   ディジタル化された情報が「著作権法」で保護されているため、実状と合わない部分が生じる。
@利用方法が伝統的利用方法と異なるため、伝達の主体が不明確になること、
A双方向的な利用により、改変や二次的著作物の利用の問題が生じること、
B情報の複合利用について、特に同一性保持権という人格権を侵害しないか、翻訳権の侵害にどう対処するかということ、
Cディジタル化によって同一物ができることと、質的に劣化したものができることで人格権侵害の問題が生じること、などである[3]。さらに、問題を複雑にしているのは、
@著作権はもともと権利関係が複雑、
A一般に著作権に対する意識が低い、
B著作者の権利を侵害する複製が技術的に容易、
C自分がしたということは自分が公表しない限り他人には知られないということ、
だと考える。

(2)アンケート
   私たちは、著作権に対する意識を調べる目的でアンケート調査を行った。
@調査期間:平成9年12月
A調査対象:一般の方(43名)、別府大学短期大学 部学生・大分県立芸術文化短期大学学生(149 名)、日常生活でコンピュータをよく使用する方 (75名)。
B調査方法:紙面、電子メールによる調査(アンケー ト)。
C主な調査内容:どの程度複製が行われているか、著作権の理解度テスト、著作権に対する意識を主に調査する。 D主な調査結果:情報化によって著作権は侵害されやすくなると思いますかという質問では、全体的に 「思う」と答えた人が80〜90%で圧倒的に多い(図 2参照)。

図2 著作権の侵害

日頃、著作権を意識してコンピュータを 使いますかという質問では日常生活でコンピュータ をよく使用する方は、一般・学生に比べると著作権 を意識しているといえる(図3参照)。

図3 著作権の意識

4.考   察
(1)技術面
   ディジタル化された著作物の権利を保護するためには、次の2種類の技術を開発し適用する必要がある。1つめは「複製防止システム」で、これは許諾を得ずに複製されるのを防ぐ技術である。2つめは「著作権管理・処理技術」で、これは利用を許諾するために必要な情報を標準形式で添付しそれを処理する技術である。また、これらの技術が適正に運用されることを支援するための制度と組織が必要となる[1]
(2)社会面
   以下の4つを検討する必要がある。@プロバイダの責任の明確化、A権利の集中管理体制の充実、B著作権法自体見直し、C情報のスムーズな流れ。
(3)心理面
   技術面・社会面で著作権を保護しようとしても、他人の権利を侵害することは技術的には容易であるし、また他人の権利を侵害したとしても法的規制から逃れることも容易である。そこで、人間ひとりひとりに「法律を守る」「他人の権利を守る」姿勢が必要となる。そうした教育を推進することが不可欠である。

5.専門家の意見
   専門家の意見として別府大学短期大学部森田均助教授と大分県立芸術文化短期大学松井修視助教授に意見を伺った。
   森田先生は、「今までは法律がプロ対プロのやり取りのためにあったが、一人一人が情報発信者となった現在では、一般ユーザと法律を結びつける機関が必要になる」という意見であった。また本研究考察の技術面での「超流通技術」に関しては、個人向けではない との意見であった。
   松井先生は「情報の流れをよくすることによって、著作権を守っていくのが良い」という意見で、本研究社会面で述べた「情報の流れ」が著作権を考える上での基本であるということであった。

6.おわりに
   情報処理技術は今後ますます発展していくと考える。そのため技術面・社会面での対応がより重要となってくる。今後、社会はますます高度になるだろう。高度情報化社会の中で生活していく私達人間はより高度な 「知識」と「心」を持つようにしなければならない。

謝 辞
   本研究にあたりご助言ご援助下さいました東京大学浜田純一教授、別府大学短期大学部森田均助教授、本学科松井修視助教授、非常勤講師渡辺律子先生、本学科実習助手中島順美先生、アンケートにご協力下さいました皆様に深く感謝いたします。

参考文献
[1]苗村憲司,小宮山宏之:「マルチメディア社会の著作権」,慶應義塾大学出版会(1997).
[2]名和小太郎:「サイバースペースの著作権 知的財産は守れるのか」,中公新書(1996).
[3]森綜合法律事務所+モリソン・フォースター法律事務所編:「マルチメディアビジネスと法律」,日本経済新聞社(1995).