仮想陶芸環境のための対話型3次元インタフェース
 
姫野 久美子

キーワード:陶芸 手の動作 電子グローブ 立体視 仮想環境 ニューラル・ネットワーク
 
1.はじめに
 大分大学知能情報システム工学科では、より良い3次元インタフェースを目標として、仮想陶芸作業環境の構築を目指すCHINAプロジェクトが精力的な研究活動を行っている[1]。私は、このプロジェクトに参加し、仮想陶芸システムの設計、陶芸作業空間の考察、陶芸における手の動作の解析、認識データの収集、評価実験の企画を担当した。本稿では、これらの研究概要とその経験および考察を述べる。
 

 

2.システムの基本設計概念
 図1に、目標とする仮想陶芸システムの概念を示す。利用者は、仮想の陶芸作品を実際の両手を使って加工することで造形する。仮想環境は、造形過程の再現、途中からのやり直し、完成物との合成などの仮想システム独特な機能をもつ。また、仮想のろくろがあり、回転体の造形ができる。仮想環境という特別な知識がなくても利用が可能なように、@手と立体表示仮想物の同一視野表示、A両手による自由な立体形状の造形、B実際の陶芸に近い手の動きによる操作の3つの設計方針で3次元インタフェースを開発する。

3.仮想陶芸システムの構成
 図2に仮想陶芸作業環境を示す。本作業環境では、入力デバイスに、左右の両手電子グローブ(Virtual Technologies社製CyberGlove)と磁気センサ(Polhemus 社製FASTRAK)を、出力デバイスに、液晶シャッタメガネ(Stereo Graphics社製CrystalEyes)を使用する。また、仮想世界は、Onyx/RE2上に、GLおよびOpenGLを使って構築する。図3に、仮想陶芸作業環境の大まかな構成を示す。 この環境は、両手サイバグローブ、左右のグローブ情報提示部、仮想物造形部、立体表示部から成る。グローブ情報提示部は、サイバグローブの出力から手の形のパターン情報を認識する「静的ジェスチャ認識」、手の形の変化パターン情報を認識する「動的ジェスチャ認識」、と磁気センサの出力から動きのパターンを認識する「動きのパターン認識」、そして、サイバグローブ、 磁気センサから位置情報を検出する「位置情報検出」の4つの機能から成る。陶芸における手の動作認識には、左右それぞれの手の動作に対して、4つの検出機構を複合的に使い精度を上げる。造形部は、グローブ情提示部からの出力によって制御される。全操作は、電子グローブを使って行う。変形作業は、直接的操作と間接(コマンド)操作で行う。立体表示部は、手の位置に対応して、仮想物をディスプレイの前面に立体表示する。
 

4.陶芸における手の動作解析
 私は、仮想環境における利用者の手の動きが現実世界での手の動きによく対応していることが仮想環境の利便性にとって最も大きな要因の一つだと考え、実際の陶芸における手の動きをビデオカメラで収録し、手の形状の分類・解析を行った。ビデオの解析結果から、手の動作は次の特徴を持つと考えた。@左右の手がまったく同じ動きをすることは希であり、多くはそれぞれの役割を持って動く。A全体的に左右の手は、動きのスピード、細かさなどに違いがあり、状況によっては片手だけが粘土に作用する場合もある。B右手と左手または人差し指と親指がペアとなって、大きさ、厚さを指示する。C視覚情報は、比較的大まかな位置・形状を表現するが、より細かい位置・形状は、触覚・力覚情報による。こうした特徴から、手の動作を左右個別に認識する必要があると考えた。また、変形動作に触覚・力覚に対応する感覚を表現する必要があると考える。図4に陶芸における手の基本動作を示す。

5.手の動作の認識機能
(1)静的ジェスチャ認識
 電子グローブによって得られるデータと、あらかじめ定義した手の形状情報とを照合し、手の形を認識する。マッチングの高速化、認識率の向上、個人差の解消のため、ニューラルネットワークを用いたマッチング法を採用する。
(2)動的ジェスチャ、動きのパターン認識 
 手の形状変化や動きと、あらかじめ定義した手の形状変化や動きとの照合を、リカレント型のニューラルネットワークを用いて行う。
 

6.考 察
(1)手の動作
 実際の陶芸には、多くの手の動作があるが、仮想陶芸システムは、頭の中のイメージ表現が目的であるから、一連の動作をひとまとめにした操作を行うことも必要である。手の動きの何を直接変形に反映させ、何をコマンド(約束事)として用意するかが、使い易さの重要な要因となる。
(2)手と仮想物との関係
 直接操作とコマンド操作を一空間内の手の動作で行うので、仮想物に手が接触しているか否かを判断し、それらを区別する必要がある。現衝突検出は、仮想物のポリゴンの全頂点と手とのユークリッド距離による初歩的な方法である。物体を簡単な立方体(バウンディングボックス)で囲み、手との距離により、接触判定を行うかどうかを判断するなどの工夫が必要である。
(3)仮想システムの評価
 仮想システムの評価は、@システムの性能(変化表示の時間遅れ、画面の更新速)、A利便性(タスクの達成度と達成時間、操作エラー、学習容易性、精神的負荷、生理学的負荷、初心者・専門家の行動差、主観的印象、サイバーシック)、B仮想システムの価値、を基準とした。
(4)人の目への影響
 簡単な影響測定では、実験の前後で特に顕著な距離感の差異はみられなかった。測定の高精度化、より多い被験者数、適切な測定法の検討が必要である。
 上記以外にも、視覚の力覚化、手動作の開始と終わりの検出、仮想物の曲面表示、素材を考慮した変形、などの検討課題が考えられる。

7.おわりに
 将来、より低価格で、容易に装着可能なコードレス電子グローブとより精度のよい位置センサが出現すれば、機器の違和感も少なく、効果的な利用が可能になると期待される。本仮想環境は、芸術、教育面の利用以外に、手の動作を計算機で認識することにより、感覚機能の増強、感覚器官の代替など、福祉面の利用も考えられる。

謝 辞
 本研究にあたりご助言ご指導下さいました大分大学工学部の宇津宮孝一教授、西野浩明先生、、陶芸について丁寧に教えて頂いた本学美術科の久保木真人助教授に深く感謝いたします。

参考文献
(1)凍田,姫野,佐藤,西野,宇津宮:仮想陶芸作業環境のための対話型3次元インタフェース,電気関係学会九州支部連合会(1997).