インターネット上の電子貨幣に関する研究   長渡 敦子  

キーワード:インターネット 電子商取引 電子貨幣 セキュリティ

 

1.はじめに

 近年、パソコンやネットワークの普及とともに、インターネットの利用者が急増した。テレビやラジオの放送で「ホームページ」や「アドレス」といった言葉を目や耳にすることも多い。インターネット上の中で買い物を「電子商取引」といい、商品を買った時の支払いは、「電子決済」という。そこで使用されるのが電子貨幣である。今、ネットワークの普及とともに電子貨幣の存在が注目されている。

2.研究目的、方法

 電子貨幣は私たちが現在利用している現金の役割をネットワーク上で行うものである。現金の代わりをするので、簡単に発行されたり、偽造されてはいけない。現金には「紙幣類似証券取締法」という法制度があるが、電子貨幣には現段階では法制度はない。また、電子貨幣は電子情報(データ)であり、形がないから、受け取っても経済的価値が分からないため、お金をもらったという実感がわかない。しかし、このような状況の中でも各企業や銀行が開発に取り組んでいるということは、将来、私たちが使用する可能性はかなり高いと考えられる[1 ]
 本研究では、@今電子貨幣の必要性、A実現するために解決しなければならない課題、B電子貨幣の未来、を明らかにするために調査・研究を行った。研究の方法は、文献や資料、専門家意見のヒヤリングのほか、アンケートを実施した。

3.電子商取引

(1)電子商取引の必要性

 電子商取引とは私たちが普段買い物をするために、直接店へ出向いたり、電話やFAXなどを使用の代わりに、商品の受発注、契約、決済をインターネット上で行うことである。電子商取引では、店へ出向く時間や費用の削減が可能となる。
 電子商取引の中ので行われる電子決済は、インターネット上の電子商取引の中での支払い手続きで、決済が全ては終了せず、クレジットカードの口座に現金を振り込んだり、取引先がそこから引き落としてはじめて最終決済が終了する。現段階ではインターネット上で決済は完結しない。しかし、この問題はネットワーク上でのみ存在するお金があれば解決できる。

(2)現金の特徴

 現在、私たちは、現金のもつ経済的価値の不変性・安定性を信用し利用している。現金の持つ大きな役割は「決済が完結できる」ことにある。これは私たち皆が現金の経済的価値を認めているからこそ可能である。  
 現金には、@誰が使用したのか分からない「匿名性」、A使う人や使用される場所を選ばない「汎用性・流通性」、B皆に通用する価値として渡すことができる「譲渡性」という3つの役割がある。 [2]

(3)電子貨幣の必要性

 上に述べたようにとても便利な現金なのに、なぜ今電子貨幣が必要とされているのか。(1)電子商取引の中で述べたネットワークの中でのみ存在するお金があれば決済が完結にできるという特徴があげられるが、現金にも改良するべき点があるからだと考えられる。1万円札等を両替したときや小銭が増えた時のかさばり、紛失、また、盗難や偽札を作るといった犯罪の可能性があげられる。

 現金と電子貨幣の比較をしてみる。今の社会では、現金の方が経済的価値がはっきりとしているため決済手段としては信用がおける。しかし、将来、より発展するであろうネットワーク社会の中では、現金は最終決済手段になれないが、電子貨幣ではそれが可能である。また、両替などの煩わしさも解消される。

(4)電子貨幣の形状

 開発途中の電子貨幣は電子情報(データ)なので外観は持たない。利用上で区別すると、プラスチック製のカードにICメモリやCPUといったデータ蓄積装置を内蔵したICカード型と、これまでに述べてきたインターネット上で利用するネットワーク型に分類できる。

 4.電子貨幣の実現

(1)電子貨幣への不安感

 現在、日本では、電子貨幣の名前だけが広まり、詳しい内容は分かたない状況である。本当に経済的価値のあるものとして通用するのか、セキュリティ問題などがはっきりとしていないため消費者側としては不安である。これらの不安感を取り除くことができなければ電子貨幣の実現は不可能と言っても良い。

(2)電子貨幣の課題

@法制度

 現金には法制度が設けられているが、電子貨幣には無い。しかし、現金に関する法制度「紙幣類似証券取締法」に電子貨幣が抵触するのではないかという問題が起きている。「紙幣類似証券取締法」は紙幣と同じように、“どこでも・誰でも・何にでも使える証券”を対象としている。電子貨幣は電子情報だから証券ではないが、その対象となる汎用性が問題とされている。汎用性は現金と同様に電子貨幣のセールスポイントであるから、これを失ってしまうと電子貨幣の意味が無くなる。 

A犯罪防止対策(セキュリティ)

 電子商取引では、データの改竄、なりすましなどの犯罪が発生する可能性が考えられる。これらの犯罪を未然に防ぐためには、ネットワーク上でデータを送る際に、データを暗号化し、保護する必要性がある。
 電子貨幣は電子情報であるからコピーは容易にできる。これは紛失したときは便利と感じるであろうが、電子貨幣として使用できるコピーは一つだけだと決めておかなければ不正使用する者が出現する。データを盗まれてしまい、それらのデータを犯人が自分より先に使った場合、その後コピーを使用してもその価値は認められないる。これでは困るので、匿名性が守られる範囲内で、この電子貨幣は所有者しか使えないというように使用者の限定が望ましい。

(3)電子貨幣の発行

 現段階では各企業・銀行で開発を進めて競争をする形を取る方が、電子貨幣の質の向上につながると考えられる。将来的には、信頼を集めている機関が発行するのが望ましい。

5.アンケート

  一般のパソコン利用者、インターネット利用者向けのアンケートを行った。
 @目的:電子貨幣についてどのくらい知識・関心があるか、電子貨幣が将来利用されることについてどう思うかといった意見を聞くため。
 A方法:往復はがき、紙面、インターネット。
 B対象:一般のパソコン利用者−本校公開講座受講者(インターネットコース・グラフィックコース)合計46 名。
      大分大学経済学部学生4名。
      インターネット利用者−156名。
アンケートの結果から、「電子貨幣」というものに大きな期待はしているが、未知なるものとしての不安も大きいことが分かった(図1,2参照)。

図1 「電子貨幣」への興味

  図2 「電子貨幣」の必要性

6.考 察

 電子貨幣が将来私たちが使用するようになるためにこれから改良、克服していかなければならない課題が多い、ネットワーク上での安全性の確保と法制度、経済的価値をどう持たせるか、発行機関の決定など大きな決断を強いられるものが多いが、一番の課題は、使用する側の不安感をなくすことだと考えられる。

7.おわりに

 将来の決済手段はどうなるのか分からないが、現在の社会の動きを見ると、私たちが電子貨幣を使用することは大いに予測できる。私たちは情報に対して受け身でなく、知らないことは積極的に調べる態度でいることが望ましい。なぜなら、電子貨幣は私たちの日々の暮らしに必要な現金の代わりとなるかもしれないのだから。これからはもっと情報に対して敏感であるべきであろう。

謝 辞

 お忙しい中丁寧な説明と、参考資料の紹介をしてくださった東京大学の浜田純一先生、別府大学森田均先生、本校コミュニケーション学助教授松井修視先生、本校実習助手中島順美先生、佐藤仁美先生、非常勤講師渡辺律子先生に深く感謝いたします。 参考文献

[1] 岩本充:「電子マネー入門」,日本経済新聞社(1996).

[2] 岡本栄司、満保雅浩:「電子マネー」,岩波書店(1997).

[3] 須藤修、山下広太郎、眞壁修:「図説 電子 マネー」,経済法令研究会(1996).

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