第4章 電子貨幣の実現

4.1 電子貨幣の不安感

現在の日本では、電子貨幣の一般への普及はまだ進んでおらず、電子貨幣に関する情報もあまり広まってない状況である。電子貨幣に関する情報はそれほど行き届いていないものの、人々の電子貨幣に対する興味や期待は大きい。しかし、その期待とともに、実体がよく理解できていないための不安感も同様に大きい。

また、電子貨幣にどのようにして現金と同じような経済的価値を持たせるか。発行機関はどのように決定するのか、国が管理するのか、それとも一般企業が発行してもよいのか。という問題もはっきりとさせておかなければ安心して利用することはできない。

4.2 電子貨幣の法制度

 ここでは法律に関わる問題を述べる。現金には「紙幣類似証券取締法」という法制度がある。これは、紙幣と同様に、どこでも・誰でも・何にでも使える証券を対象として取り締まる制度だが、電子貨幣には今のところ法制度はない。しかし、この「紙幣類似証取締法」に電子貨幣が抵触するのではないかという議論が起こって   図4 電子貨幣と「紙幣類似証券取締法」

 

いる。電子貨幣は紙ではなく電子情報なので証券ではないから大丈夫かというとそうではなく、対象となっている「どこでも・誰でも・何にでも」という汎用性が問題となっている。汎用性は現金同様電子貨幣にとってセールス・ポイントである。汎用性のない電子貨幣には利用価値が無いのと同然である。これは電子貨幣を実現しようと考える者にとっては大きな問題であろう。この問題の一例として、1980年代後半に議論が起こった、プリペイドカードの問題を挙げる。

公衆電話に便利なテレホンカードや、JRの駅で切符が買えるオレンジカードなどのプリペイドカードが「紙幣類似証券取締法」に抵触するかという問題が起きた。この場合は、テレホンカードは電話、オレンジカードは切符と利用できるものが決まっているため、汎用性がないとしてこの法制度には抵触しないという結果となった(図4参照)[1、4]

  • 4.3 電子貨幣の犯罪とセキュリティ
  •  ネットワークの世界にも犯罪は起こる。「電子貨幣の必要性」で述べたように、データの破壊や改竄、秘密文書の盗難といったものから、比較的有名なコンピュータ・ウィルスといった一見いたずらにも思えるものまである。これらは、程度にもよるが、大きな被害を受ける原因となり得るものなので未然に防ぐ必要がある。コンピュータ・ウィルスについては、現在ではワクチンソフトと呼ばれる、ウィルス発見ソフトがあるので他の犯罪より被害が少なくて済みそうに思える。しかし、ワクチンソフトにも対応できるウィルスの種類が決まっており、新種のウィルスは発見できないという欠点や、ウィルスの感染を防ぐことができなかった場合、気づくのが遅い時には1つの会社1フロア分のコンピュータがウィルスに侵されていたということもあるので充分な注意が必要だ[7]

    ネットワークでデータを送るという手段を取ることで人目に触れず転送できるという利点もあるが、思いがけないところでデータを盗まれることがある。それが企業の重要な秘密文書であったり、個人的なものであればその損害も大きい。

    電子貨幣による決済においては、誰が・いつ・誰にいくら払うという金銭的データがネットワーク上を流れるため、盗聴・改竄・なりすましによる不正使用を防ぐための充分な注意が必要とされる。

  • 暗号化技術

  • 被害を防ぐためにデータを送る際に盗聴されても他人には理解できないように、暗号化して送る技術がある。この技術はインターネット上で決済をして個人データを送る際に機密保持、プライバシー保護のための重要な鍵となる。暗号化技術は、大きく分類すると以下の2通りがある。   図5 共通鍵暗号方式   図6 公開鍵暗号方式

    @共通鍵暗号方式(秘密鍵暗号方式)

    この方式は、データを交信する両者が共通の鍵で暗号化と複合を行う方式である。

    送信側が送る情報をAとすると、情報Aを共通鍵を使って暗号化A→A’にして送る。受信側は受け取った情報A’を共通鍵を使って復号A’→Aにして解読する。商取引のような交信を行う場合は、それぞれが相手ごとに異なる共通鍵を管理しなければならない。また、鍵を作成した場合は相手に鍵を送信する必要があるために不特定多数の人との交信は困難である(図5参照)。

    A公開鍵暗号方式

     これは、データを交信する両者が公開鍵(共通鍵)、秘密鍵(各自別)を持ち暗号化と復号を行う方式である。

     送信側が公開鍵を使ってデータを暗号化A→Aに’して送る。受信側は暗号化されたデータA’を自分だけが持っている秘密鍵を使って復号A’→Aにして解読する。これは各自が自分の秘密鍵を管理すればよいだけで、送信相手に秘密鍵を送信する必要がない(図6参照)[4、8、9]

    上の2つの暗号化技術を上手に利用して、犯罪を未然に防ぐように心がける必要がある。

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