現在、我々は、現金の持つ経済的価値の不変性・安定性を信用して日常生活で利用している。現金の最大の役割は、「決済が完結できる」点にある。普段行う現金での買い物を考えれば分かるが、レジに商品を持っていき、代金分の現金を支払えばその取引は終了する。これは、取引を行う双方が現金の経済的価値を認めているからこそ可能になる。
この他、現金には次の3大要素と呼ばれる役割がある[4]。@誰が使用したのか分からない「匿名性」、A使用の条件を選ばない「汎用・流通性」、B(日本の)皆に通用する価値として譲渡できる「譲渡性」。
皆が現金の経済的価値を認め、日常生活にも不自由なく利用することができる現金があるのに、なぜ今電子貨幣が必要とされているのか。前述したようにネットワーク上でのみ存在するお金があればインターネット上での電子決済が完結にできる利点が最初に挙げられるが、それ以外にも、現金自体に改良するべき課題がある。身近なことでは、紙幣を両替したときのかさばり、盗難・偽札作りによる犯罪原因となる可能性等が挙げられる。現金が形のあるものとして存在する限りこれから先も犯罪の標的となる可能性は大である[4]。
銀行の現金輸送車が運搬途中に襲われる事件があるが、これは運搬という行為が目に見えて分かるために狙われやすいのであろう。もし電子貨幣であれば、遠隔地への運搬も楽に行える。また、銀行の現金輸送ではなくても、我々が利用できる範囲での改善も考えられる。郵便局の現金書留である。現在は、自ら郵便局へ行き、現金書留の手続きをしてからその分の代金を支払うまでが一つの手順として行われている。また多少の時間もかかる。しかし、電子貨幣ならばほぼ無コストでしかも場所の移動時間もかからずに送金することが可能である。だが、油断はできない。ネットワーク上でも犯罪は起こる。データの破壊や、改竄、秘密文書の盗難等一歩間違えば大損をする可能性がある。
現在、企業・銀行が開発段階にある電子貨幣について述べる。電子貨幣というものは電子情報(データ)であるので外観は持たない透明な存在である。利用上で区別すると、ICカード型とネットワーク型に分けることができる。
ICカード型は街の店舗等で利用できるようにプラスチック製のカードにICメモリやCPUといったデータ蓄積装置を内蔵したものである。ICカード型の代表的な存在としてイギリスのモンデックス社がある。モンデックス社のICカードは、モンデックス・マネーに対応したレジ端末を持つ店舗などにおいてICカードをスロットに差し込むだけで支払いが可能になっている。また、モンデックス・マネーはカード間で転送する事もできる。遠隔地に住む人に送金したい場合は、モンデッ
図3 モンデックス・マネー
クス・マネー用電話を送受信側双方が持っていれば電話回線を利用して送受信することができる。さらにモンデックスはICカードをインターネット上でも利用できるようにしようとしている(図3参照)[5]。
ネットワーク型はこれまで述べてきたネットワーク上でのみ利用できるものである。代表的な存在として、オランダのデジキャッシュ社のeキャシュがある。デジキャッシュ社はインターネットにおける暗号技術を駆使した電子現金通貨による決済手段の開発に取り組んでいる[6]。
現在、日本で開発段階のICカード型電子貨幣はICカードに現金を振り込む形式をとるため結局クレジットカードと同様の働きしかしない。従って、将来的にはモンデックス・マネーのようなICカード型・ネットワーク型両方として利用できる電子貨幣の普及が予想される。